1977年にBirt, Hogg, Dubéの3氏は常染色体優性遺伝性と考えられる頭頸部の多発性皮膚丘疹を呈するカナダの一家系を報告しました. この遺伝性皮膚疾患は3氏の名前をとってBirt-Hogg-Dubé (BHD) 症候群という名称で呼ばれるようになりました.
2001-2002年にかけてBHD症候群の責任遺伝子が17番染色体短腕に存在することが研究によって明らかにされました.その後, 研究は大きく進展し, BHD症候群の家系には皮膚腫瘍のみならず, 多発性肺嚢胞と自然気胸が高率に発症し, 腎腫瘍を起こしやすいことが知られるようになりました. また低頻度ながら消化管や内分泌臓器にポリープ, 嚢胞, 腫瘍を発症すると報告されています.今日では皮膚, 腎, 肺の病変がBHD症候群の三主徴と認識されています.
肺: 多発性嚢胞, 反復性気胸
当初家族歴がないとされてきた患者さんでも、診断確定後に改めてお話を聞くと、家族に気胸歴や皮膚腫瘍があったことが往々にして判明します.特に肺嚢胞の発生率は最も高い(CT検査を受けていただくと9割以上に認められる)ことが分かりました. 肺の嚢胞や気胸の所見からBHD症候群を疑われる場合が最も多く, 反復性の気胸を患う方や, 家族にも気胸歴を有する方に対しては, 本疾患の可能性を考えなければなりません. しかし実際には検査しても手術しても自然気胸との鑑別が困難な場合があり, 見逃されている患者さんが多くいらっしゃると思われます.
皮膚:Fibrofolliculoma
頭頸部や上半身に数mmの丘疹が単発/多発します. 目に見える箇所のことが多いですが, 患者さんは「にきび」とか「小さないぼ」としか思っていなかったり, 検診機関の医師も皮膚科専門ではないため気づかないことがあります. また, 女性の患者さんの場合には髪型や化粧で目立たなくなっていることもあります.
腎臓:hybrid oncocytic/chromophobe tumor (HOCT), chromophobe RCC
BHD症候群における腎腫瘍は, 中高年患者さんの3割程度に発症し, しばしば多発性・両側性です. 嫌色素性腎細胞癌や, 嫌色素性腎細胞癌とオンコサイトーマからなるhybrid oncocytic/chromophobe tumor (HOCT)が多いですが, 低頻度ながら淡明細胞型腎細胞癌, 乳頭状腎細胞癌なども報告されています.
本邦でも医療従事者の間で本疾患が広く認識されるようになり, 遺伝子検査で確定診断に至る患者さんが増えてきました. 日本人患者さんは皮膚症状が軽微で気胸・肺嚢胞や腎腫瘍を契機に呼吸器科,泌尿器科, 画像診断科, 病理診断科の医師によって気づかれることが多いです. 腎臓腫瘍は多発傾向があります. 定期検診で早期発見・早期治療できれば生命予後は良好です。 私たちは患者さんの症状に応じ各科と協力しながら活動しています. 具体的な検査手順のご相談にも対応しておりますので,ご活用ください.